1. 20歳の頃、自己啓発が“当たり前”だった時代
今から30年ほど前、私が20歳くらいの頃──日本は自己啓発ブームでした。
書店には、ナポレオン・ヒルやマーフィー、デール・カーネギー、そして当時新しく入ってきた『7つの習慣』などの本がずらりと並んでいました。
私の周りにも、1回10万円のセミナーに通う人は珍しくなく、ナポレオン・ヒル系の100万円講座を受けている人も普通にいました。
私は一度もそういった高額セミナーには行きませんでしたが、自分で起業をする立場になったとき、最初うまくいかず「結果を出してる人は何が違うのだろうか?能力の差はさほどないのでは?」と考えるようになりました。
そして、能力ではなく考え方の差が結果を生むのではないかと思い、そこからマインドセットを学び始めたのです。
2. マインドセットは「行動促進装置」
そもそもマインドセットの目的は何かといえば──目標達成の為の行動を起こさせることです。
ネガティブな思考をポジティブに置き換え、行動・行動・行動と前に進ませる。
確かに、多くの行動を重ねれば経験値が増え、密度も上がり、結果は出ます。
しかし、行動の量が増えても、それがそのまま幸せや満たされ感につながるとは限りません。
ここに大きな分岐点があります。
- 不足からの行動:「まだない」「足りない」「もっとやらなきゃ」という欠乏感が起点
- 満たされたところからの行動:「もう十分」「やってみたい」という充足感が起点
同じ行動でも、出発点が不足か充足かで、その行為から得られる体験の質も、最終的な満足度もまったく変わります。
不足からの行動は、結果が出ても「もっと…」が続き、永遠に満たされません。
3. ネガティブの中のポジティブだけを見る癖
マインドセットを実践するほどに、ネガティブな出来事の中にあるポジティブな側面を見出していきます。これは一見、成長や前進を促すように思えますが、実際には本当の違和感や不快感を隠す作用を持っています。
身体が発している「これは違うよ」というメッセージも、「これは成長のサインだ」と変換してしまう。
結果として、違和感を感じる力を無視する危険も含みます。
4. 私の場合──最初から“つながっていなかった”
私の場合は、マインドセットを極めるほどに感覚が鈍ったいったわけではありません。
もともとネガティブな感情や身体反応とつながる感覚が、ほとんどなかったのです。
身体はちゃんとサインを送っていました。胃の重さ、背中のこわばり、浅い呼吸…
でも私は、それを「ただの現象」としてスルーしてしまっていた。
つまり、感情のサインも、身体のサインも、自分とは分離していたのです。
そして、それこそがマインドセットの構造でもあります。
ネガティブな感覚や反応を“感じ切らず”、意識で上書きし続ける。これが、私の分離をますます強化していったのです。
5. 感情と身体のサインは“先に”やってくる
私たちの身体は、頭で理解するよりも前に、微細な違和感を察知しています。
心臓がドキドキする、胃が重くなる、呼吸が浅くなる──これらは思考の前に起こる反応です。
しかし、ポジティブへの切り替えや不足感を埋める行動を優先するあまり、この初期信号を「なかったこと」にしてしまう。
気づいた時には、症状や現実の問題が大きくなってから、ようやく自覚するということが起こります。
6. マインドセットの“光と影”
- 光(メリット)
- ネガティブな出来事に引きずられにくくなる
- 前向きに行動しやすくなる
- 短期的なパフォーマンス向上
- 影(デメリット)
- 潜在意識や身体の声を無視しがちになる
- ネガティブの中のポジティブ探しが“本当の違和感”を隠す
- 不足感を埋めるための行動が続き、満たされ感が得られない
- 感情の未処理が蓄積し、後から大きな負荷になる
- 分離が固定化され、感覚を取り戻すのが難しくなる
7. 本当に必要なのは「マインドセット+ボディセット」
マインドセットは、あくまで“意識”の領域です。
そこに「ボディセット」──つまり、身体の感覚や反応に耳を傾ける習慣を組み合わせることが、本当の意味での自己成長につながります。
例えば、こんな習慣です。
- 朝、目が覚めた時に、頭ではなく“身体”の状態を先に確認する
- ネガティブな感情や違和感が出たら、理由づけせずにまず感じきる
- 「大丈夫」と思う前に、「本当にそう感じている?」と自問する
8. 「ただ在る」ことへの回帰
私の著書『リボーン──ただ在ることに還る書』では、外側の出来事や思考によって自分を定義するのではなく、何も足さず、ただ在るという状態に還るプロセスを描いています。
マインドセットは私たちを行動に向かわせてくれる一方で、身体や潜在意識の声を聴く時間を奪うこともあります。
もしあなたが今、「何となく疲れているのに、理由が分からない」「ポジティブでいるはずなのに満たされない」と感じているなら、それは“ただ在る”ことから離れているサインかもしれません。
ポジティブになることよりも、まずは今の自分をそのまま感じること。
そこからしか、本当のバランスは生まれません。